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《ホーランドロップとトンビ》
辻 明日真
第九話『ヘングストのアロマテラピー』
ツーーツーーツーー
「切られた……」
誠から電話をかけたにもかかわらず、鳶雄が一方的に話しをして電話は切られてしまった。誠は鳶雄のマイペースには慣れていたが、この時ばかりは話を聞いてほしかったのだろう、誠の表情からは不満という文字がはっきりと見て取れた。そして、5番と8番には気を付けろ、という鳶雄の謎の言葉に誠の頭は混乱していた。
「おい!下に車が到着した、早く来い!」
白陰の声に誠はハッと我に返った。
「どうした?まさかもう怖気づいたのか?」
「違う!考え事してただけ。もう覚悟はできてる!」
下に降りるとSクラスのクーペのベンツと黒のタキシードを着た白髪の老人が2人の到着を待っていた。
「どうぞ」
白髪の老人が親切に後部座席の扉を開けてくれた。その時、誠はこの人をどこかで会ったことがある感じがした。しかしどこで会ったかは思い出せないでいた。
「早く中に入れ!!行動が遅いぞ!!」
急き立てられるままにベンツの中に入ると、アロマの香りが車内一面に広がっていた。
「わ~、いい香り!」
「ユーカリとローズマリーを配合したアロマになります。双方とも集中力を高める効果があるんですよ」
「じじい、アロマうんちくはいいから早く車を出せ!時間がない!」
「承知しました、坊ちゃん。急いで向かいましょう」
Sクーペのベンツがアジトに向かって出発した。誠には不安な心もあったけれど、同じくらいか、それ以上に待ち望む想いがあった。6歳の頃から一度も会っていない父親に会えるとなれば、それを喜ばない息子がどこにいようか。誠は父親に会ったら何を言おうか真剣に考えていた。
「さっきから黙ってどうした?」
「父さんに会ったら何を話そうか、考えてた」
「そっか。残念だったな」
「え?!」
「おまえの親父はアジトにはいない」
「そんな!!話が違う!!」
我知らず誠は白陰の両肩を掴んでいた。
「『鷹の目』にいるっていったじゃないか!!!」
「アジトにいるとまでは言っていない。とりあえず、落ち着け」
2人のやり取りに見かねたのか白髪の老人が話に割って入ってきた。
「安心してください。あなたのお父上は今、東京、早稲田の地を訪れています」
「父さんが?!早稲田に?!」
「あなたも一段落着いたら早稲田に戻ってみなさい」
「それなら今すぐ戻る!!アジトに行く意味がない!!」
「落ち着け、偽トンビ!アジトに行く理由はある!今アジトにはおまえが一番会わなきゃいけない奴が待ってる」
「父さん以外に今会いたい人なんていない!!」
「一度言い出したら止まらないな、見た目によらず頑固者だ」
「早稲田に行かせてくれ!!」
「言うことを聞かないな……仕方ない」
白陰はズボンのポケットから一枚の写真を取り出して誠に見せた。
「?!!!」
「見覚えあるよな。昔の面影が残ってるはずだ」
「なんでこの写真をおまえが?」
「今から会いに行くのがこいつだ」
「……」
驚きのあまり誠は言葉を失っていた。
「ヘングスト、おまえのアロマでリラックスできるやつはないのか?」
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「ありますよ。クラリセージが緊張をほぐし平常心を取り戻す効果です。そちらでいいですか?」
「ああ、頼む。アジトに着くまでに回復させないといけなくなった。まったく、世話が焼ける」
車内にクラリセージの香りが漂い始めた。誠はこの時、精神が安定しない最中、ある一つの幻を見ていた。
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アロマテラピーとは
植物が持つ香りやさまざまな働きを利用して、心身のトラブルの解消に役立つ自然療法「アロマテラピー」。アロマテラピーに使用するエッセンシャルオイルは植物から抽出した天然の化学成分なので、医薬品と異なり体のさまざまな症状に緩やかに作用し、体への負担も小さくお子さんからお年寄りまで幅広く使用できます。
新生活を向かえる春は、こころも体も疲れぎみです。アロマを毎日の生活に取り入れて、健康維持に役立てましょう。

辻 明日真

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