辻 明日真/ コラム, 小説, 連載/ 0 comments

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《ホーランドロップとトンビ》

辻 明日真

 

第一章《計画×始動》

 

第二話『北陸新幹線、車内にて』

「俺は誠の代わりに早稲田大学に明日から通う。誠は俺の仕事をしてくれ。俺の仕事は今日、全てを説明するのは難しいから、その都度、何をすべきかLINEで送る。言われたことさえしてくれれば、あとは自由にしてくれて構わない。あ、一つだけ約束して欲しいことがある。入れ替えたことは二人だけの秘密だ。二人の他にバレたらいろいろ面倒だからな。」

あの晩の鳶雄の一言で、僕ら二人の人生は入れ替わった。半ば強引に。でもそれがよかったのかもしれないと誠は思い始めていた。

ラグナベルデ103の会談の会談から一夜明けて、10月29日13時34分。誠は今年の3月に金沢までの開業を果たした北陸新幹線に乗っていた。全く揺れのない乗り心地に、誠は500円玉が立つのか実験してみたいと思う程であった。東京を出発した北陸新幹線は今、金沢に向かっている。その速度、時速260キロ。想像が及びも付かないスピードに誠の心は弾む。一方で昨日まで通っていた大学に突然行かなくなるという異常事態に誠の頭は整理出来ていなかった。

(北陸新幹線は金沢という終着地点がある。じゃあ僕の人生は・・・どこに向かっているんだ?)

先が見えない不安と寂しさに自然と誠の表情が曇りだした。新幹線に乗った時の喜びが一瞬にして消し飛んだ。人間の心と考えは、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり、一日に何百回も変わる様を見ながら誠は自分の弱さを受け止めきれずにもがいていた。ふとiPhoneに目を留めると鳶雄から連絡が来ていた。

8:50

「今から大学行ってくる!なんか、ワクワクするな。大学なんて一生行かないと思ってたから、まさかこんな風にして行くとは夢にも思わなかったよ。誠、ありがとう!」

鳶雄のLINEのメッセージからは不安というものが感じられない。それが誠にはうらやましくもあり、能天気だと忠告したくなる気にもなった。そして、その4時間後に来ていたメッセージに誠の目は釘付けになった。

12:53

「誠、大学に友達はいるのか?午前中、だ~れも話しかけてこなかったぞ!」

そんなはずはない、と誠は鳶雄の言っていることを信じられずにいた。今まで築き上げてきた人間関係が一夜にして崩れ落ちるとは思えなかったし、思いたくもなかった。しかし、考えてみると一体誰が親友と呼べるほどの仲だったのかと誠自身にもわからなかった。

「大学では友達の数よりも友達の質だ。みんな連絡先交換しておきながらキャンパスであったら挨拶ぐらいしかできないんだ。浅く広くやってちゃ本当の友達はできないね。」

大学に入ったばかりの時に学部の先輩が言っていた言葉が思い出された。

(僕に本当の友達はいるのだろうか?)

悲しみが誠の心を押しつぶそうと迫ってきた。誠の心は19歳という年齢相応の成長はしていたものの、大きな悲しみに対処する術はまだ身に付けていなかった。悲しみに覆われていく寸前で丁度良く車内アナウンスが流れた。

「飯山!飯山!」

アナウンスと同時に大勢の人が車内に入ってきた。最後に乗車してきた男性だけ際立って身長が高かった。190センチ越えの長身の男性は誠の席のところで足を止めた。まじまじと誠の顔を見た後、言った。

「あれ?人違いか・・・」

「どうされました?」

「あ、いや・・・・知り合いに瓜二つで勘違いしてしまったようです。」

「そうですか。」

誠は昨晩、鳶雄と約束したことを思い出していた。早速、バレそうになったことに誠は先が思いやられた。なんとかやり過ごすことができたと安堵した矢先・・・

「ん?あなたの心の状態、とても不安定ですね。何かあったのですか?」

「え?!」

自分の心が見透かされていることに誠は驚きを隠せなかった。

(どうして僕の心が、)

「ある程度は読めますね。読心術というものです。」

(心が読めるなんて・・・反則だろ!)

誠は定まらない自分の心を見透かされ気分は良いわけではなかった。しかし、それ以上に、この定まらない誠の心を治める術を、長身の男は知っているのではないかと期待する思いが上回った。

「この心をどうやったら治めることができますか?」

「あっちへ行ったり、こっちへ行ったり、コントロールできてない状態だよね?」

「はい、あまりにも多くのことが一度に起こって・・・・」

「世の中には二種類の人間がいてね。環境に流されていく人間と、環境を作っていく人間。」

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長身の男の話し方は人を引き込む何かがあった。次の言葉を聞こうと誠の全神経が研ぎ澄まされた。

「前者は良い環境が来るまで待ってばかりで自分からは動こうとしない。逆に後者は環境が悪くても自ら行って良い環境に作り変える。君はどっちだろう?」

「僕は後者かもしれない・・・」

「まあそれも本人次第で変えられる。結局、環境が問題ではなく、いつも本人の心が問題なんですよ。」

納得の行かない表情の誠を見ながら長身の男は笑みを浮かべて話を続けた。

「その肝心の心をどう治めるのか、気になっているようですが・・・今日は答えを言いません。」

「へ?!」

誠の気勢がそがれた。ここまで話を面白くしておいて、なんなんだ、と誠は抗議したい気持ちになった。

「今簡単に答えを与えてしまうと、君のためにもなりませんよ。」

(答えが知りたい!!今、教えてくれよ!!)

「ゆっくり一人で考えてみてください。あなたが知っている人の中にも心をうまく治められる人がいるはずです。その人を見て、研究するのがいいですよ。」

それでは、と疾風のように歩き出し、誠が呼び止める間もなく、別の号車に姿が消えていってしまった。

(う、宿題を出されたのか。なんか更に頭が痛くなってきた・・・)

瞬間の出来事に誠の思考速度が追いついていなかった。大学一年間使いきれていなかった誠の脳はこの時ようやく動き出そうとしていた。嬉しい反面、誠の脳には負担も大きかった。平素、運動していないお父さんが子供の運動会の時に親子リレーを張り切ると肉離れになるように、誠の脳はいきなりフル稼働しようとして空回りしている状態であった。

「どうだった?」

「人違いだったよ。」

長身の男は席に座ると、フーとため息をついた。

「そ、そんな?!あの男に兄弟はいないはずよ。」

少女の目は驚きで大きく見開いている、長身の男はその目を見て頷きながら言った。

「それは私も知っていました。話してみたら全くの別人ですよ。そんなに気になるなら、スクアラルさんも見てきたらどうですか?」

「嫌よ、めんどくさい!オカピ、なんで問い詰めなかったのよ!!」

「冷静に考えてください。もし関係のない子だったら、巻き込むわけにはいかないでしょ。あの子はあの子の人生があるんだから。」

「そう、まあいいわ。私たちはこれからの仕事に集中しないとね。」

「そうですね。今回は一筋縄ではいかない感じですね。金沢での仕事が終わったら一旦、東京に戻りましょう。」

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辻 明日真

辻 明日真

田舎に泊まろう!をコンセプトに自転車旅で10代はひたすらバガボンド。大学での豊富な失敗体験を生かして学生アドバイザーを行う傍らブログや小説に熱を入れる。アウトドアに見せかけて実は囲碁、お茶、コタツを三種の神器としているかなりのインドアマインドの持ち主。

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