辻 明日真/ コラム, 小説, 連載/ 0 comments

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《ホーランドロップとトンビ》

辻 明日真

 

第一章《計画×始動》

 

第三話『ザイアンスの法則(単純接触効果)』

高比良鳶雄には他の追随を許さないカリスマ性があった。これは天性のものであった。

「俺は一人でいるのが性分にあってるなぁ。楽でいいや。」

鳶雄はそう言うが、周りはそれをいつだって放ってはおかなかった。中学校でも高校でも。きっと、この早稲田大学でもそうなるだろうと、鳶雄自身も勘付いていた。思い掛け無いところから降ってきた大学生活に鳶雄の心はときめいていた。さらに誠からのLINEがそれを加速させた。

 

14:24

「今までの僕の付き合いは気にしなくていいよ。トビの好きなように新しいキャンパスライフを送って!」

携帯の画面を見ながら鳶雄はうっすら笑みを浮かべた。

(次は4限・・・力学か。)

時計に目をやりながら、鳶雄は早稲田理工学部53号館に向かって移動を始めた。歩きながら鳶雄の頭の中で自然と先の計画が構築されていった。鳶雄の天才的と言える頭脳は休むことを知らなかった。そして、この計画に後々、人々は驚かされることになるのだが、今はまだそれを知る者は一人もいない。鳶雄の歩みと共に計画は徐々に完成に近づいていった。

「着いた!53号館、301!ここだな!」

一気に3階まで上がったので鳶雄の息が少し切れていた。301の大教室の扉を開けて教室の前から中に入った。まだ教授は来ていない。200人近い学生の話し声で賑わっている。

(さ~て、計画もできたし、テンション上がってきたなぁ♫)

教室の空いている席ではなく、座っている一人一人をじいっと見渡した。入る寸前に先程まで鳶雄から放出されていたカリスマオーラが消えていた。これを意図してやったとは誰も気付くはずがないと、鳶雄は十分わかっていた。

(目星しいのが二人いるな~、どっちがいいか・・・)

鳶雄は立ち止まって、一番前の席と右奥の角席を交互に見ていた。

(一人でいる奴がよさそうだな。後ろの奴は集団の中だし。)

大学の授業では珍しくないことだが、学生は後ろの席から埋めていく。前に座る人は勉強に意欲を燃やしている人だと言わずと知れている。鳶雄の目にとまった男もまさにその通説通りだと思わざるを得ない情熱を無言の中で放出していた。

「隣いいかな?」

と声をかけてからの鳶雄のやり取りには目を見張るものであった。名前は大西政孝、群馬県前橋出身、将来は日本の教育に携わる仕事がしたい、等等、次々に情報を入手する鳶雄の凄さに周りは気付かない。抜け目がないのはこれらの情報を聞き出す前に誠との面識がないことを最初に確認していたことだ。

「誠くんは将来どんなことがしたいの?」

「俺も教育に興味があるんだ。」

「え?そうなの?!それはうれしいな!」

「松下村塾って知ってる?俺のモデルはあれさ!」

その時、力学の教授が定刻に遅刻し慌てて教室に駆け込んできて早速授業を始めた。政孝は話の続きがしたくてたまらない様子だったが授業中であることを意識して、小声で言った。

「この授業終わったらすぐバイト行かないといけないんだ・・・本当は誠くんと話がしたいんだけど。明日、空きコマある?」

この時、既に政孝の心は鳶雄の手中に収まっていた。鳶雄は人の心を掴むことに長けていた。人と人が出会う時、初回で相手に魅力を感じなければ次はない。格段、鳶雄は初回に強く、続けてザイアンスの法則を用いて人間関係を作ることにおいて玄人の領域だった。

 

2015年10月30日(金曜日)

2限が互いに空きコマで理工キャンパスのベンチで話すことになった。10月も終わりに差し掛かり、紅葉も見納めの時期。落ち葉が色鮮やかにキャンパス内をデザインしていた。

「おまたせ!」

10分前からいたのではないかと思うほど、話したくてうずうずしている政孝を見て鳶雄は純粋にうれしかった。鳶雄がベンチに座るや否や政孝は口を開いた。時間を忘れて二人は教育について語り合う。昨日会ったとは思えないほど二人の距離は縮まっていた。

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「今の教育じゃ、日本はダメになるんじゃないかな。」

「うん、誰かが変えないといけないと思うんだけど、大人は期待できないからな。やっぱ・・・」

鳶雄の発言はいつだって唐突だった。ラグナベルデ103の会談に続く二度目の規格外れな提案を打ち出した。

「俺たちが日本の教育を変えよう!平成の松下村塾を作るんだ!」

誠の時と同じく政孝もポカンとすると思いきや、彼は鳶雄の言わんとすることを十二分に理解し、無言で頷きながら続けて鳶雄の熱弁に耳を傾けていた。

そして、一週間後の11月6日、政孝は二人の青年を引き連れて、鳶雄の前に突如現れた。

「仲間を集めてきたよ。松下村塾も初めは数人の塾生から始まったようだし、僕らも4人いれば十分だろ。」

政孝は満面の笑みだった。夢を追いかけています!と顔に書いてあるような表情に思わず鳶雄は笑いそうになった。政孝が連れてきた二人も誠のことは元々知らなかった。二人とも政孝の熱意に惹かれて集まった、と後日二人が話すのを鳶雄は聞いた。この時、鳶雄は大西政孝という男に潜在する能力を垣間見た。こうして政孝が現れたことで鳶雄が以前立てた計画はさらに一次元高いものに再創造されたのだった。

 

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ザイアンスの法則(単純接触効果)とは?

繰り返し接すると好意度や印象が高まるという効果。1968年、アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが論文にまとめ知られるようになった。接触回数が増えるほど人間の好意度は高まる、という心理法則です。一回だけよりも、何回も見たものの方が当然好意は強まります。テレビやCMやメールマーケティングに応用されており、適切な頻度で接触を重ねることが「身近な存在」であるということを無意識に植え付け、好感度を上げる(認知を取る)ことができるという手法です。

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辻 明日真

辻 明日真

田舎に泊まろう!をコンセプトに自転車旅で10代はひたすらバガボンド。大学での豊富な失敗体験を生かして学生アドバイザーを行う傍らブログや小説に熱を入れる。アウトドアに見せかけて実は囲碁、お茶、コタツを三種の神器としているかなりのインドアマインドの持ち主。

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