辻 明日真/ コラム, 小説, 連載/ 0 comments

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《ホーランドロップとトンビ》

辻 明日真

 

 

第四話『Sophia Rabbit Debuts In Kanazawa』

東北新幹線は金沢駅に到着した。アメリカの旅行雑誌「トラベル・レジャー」にて2011年に「世界で最も美しい駅14選」の一つに選ばれた金沢駅。外観はもちろんのこと、内装も目を見張る美しさだった。

「世の中には二種類の人間がいてね。環境に流されていく人間と、環境を作っていく人間」

東北新幹線車内で長身の男が言った言葉が誠の脳裏に突如浮かんだ。心を治めるためにはどうすればいいのか、その答えをすぐに与えてもらえなかった。これにより誠の記憶にこの言葉が強く残った。

(あの長身の男とはまたどこかで会う気がする……)

その時までに自分なりの答えを見つけていたい、と誠の中で新たな目標が一つできた。

金沢駅に着く5分前、

13:43

「金沢駅に到着したら、渡した封筒5つの中の3番を開けてくれ」

と鳶雄からLINEが来ていた。

誠は指示通り「3番」と書かれた封筒の封を切った。中には便箋が一枚入っていた。

〈セイ

これから本格的に仕事の内容について説明する。と言っても、いきなり全部を話すには時間が足りない。今回の仕事をする上で最低限知っておくべき情報を伝える。これから先に書かれた内容は俺たち双子以外、誰にも見られてはいけない。読み終わったら1番の封筒に入ったライターでこの手紙を燃やしてくれ。

本題に移ろう。仕事の内容を説明する。今回、セイにはある重要な会談の『立会人』をやってもらう。大きく分けてやることは二つ。場所の提供と、記録を取ること。場所は「鑪プリンスホテル」、部屋のカードは5番の封筒に入ってる。記録は2番の封筒のボイスレコーダーを使ってくれ。残った4番の封筒はホテルの部屋に着いたら開けてくれ。

説明は以上。何か質問があればLINEで。くれぐれもバレないように。健闘を祈る。

トビ〉

誠は手紙を持ちながら、その場に立ち尽くした。

(どうしよう、とんでもないことに首をつっこんでしまったんじゃないか……)

もう引き返すことができない。そう思うと不思議と体は動いた。無自覚のままズボンのポケットから携帯を取り出しGoogleMapsを開いて「鑪プリンスホテル」を検索していた。

(立会人……僕に務まるのか)

溢れ出しそうになる不安を押しつぶして、誠は金沢駅を後にした。

鑪プリンスホテル9階904号室の中に誠は入っていった。通常泊まる部屋の倍以上の広さに誠は驚いた。奥にはL型のソファーがあった。誠はそこに座ると早速、「4番」の封筒を開けた。また便箋が一枚入っていた。読み始めて1分もしないうちに、

「ピンポーン」

部屋のベルが鳴った。誠は読んでいた手紙をがさつに折りたたみ、タウンユースのショルダーバックに放り込んだ。扉の覗き穴から部屋の外を見ると、男が2人立っていた。片方は誠と同い年位だ。誠は一瞬怯んだが、すぐさま歯を食いしばり、ドアを開いて二人を部屋の中に迎えた。誠の表情からは何か決心をした様子が覗える。

(大丈夫だ、トビの言葉通りやれば)

「4番」の封筒の中にあった手紙の内容を誠は頭の中で何度も反復した。すると落ち着きを取り戻すことができた。

L型のソファーに2人の男は座ると、年上の男が先に話しだした。誠はソファーの端に座り、ショルダーバックの中のボイスレコーダーの録音ボタンをこっそり押した。

「ラビット君、久しぶりだね」

「そうですね。前回一緒に仕事をしたのは確か、去年の11月ごろ」

「時が過ぎるのは早い。残り二ヶ月で2015年も終わりか」

年上の男性は20代後半ぐらいに見える。

(トビの2枚目の手紙に書いてあった名前。たぶん、こっちがグーフォ。若い方がラビットか。)

誠は二人のやり取りに意識を集中した。

「グーフォさん、これが今回の品になります。能登までお願いします」

「これを渡すだけなのに、まさかこんなところまでトンビの監視があるとは」

そう言いながらグーフォが誠をチラと見る。誠は不意を打たれが、表情だけは必死に守った。

「まあ、仕方がないですよ。これが彼の仕事です。」

「それもそうか。ところで、ラビット君。大学生活はどう?」

(大学生なのか?!)

誠のラビットに向かう関心が急激に強まる。

「もがいていますよ。学生団体の代表というのは簡単ではありません」

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「もがきか、それはいいことだね」

グーフォの言葉にラビットの顔が一瞬歪んだが、すぐに元の微笑みを取り戻した。

「グーフォさんにも、そういう経験があるんですか?」

「大学時代、何度も。今だってあるさ」

「今もですか?そうは見えないですけど」

「もがきとの付き合い方がわかったから今はそれさえも楽しんでいるよ」

「僕の場合は、周りの人達が変わらないと、どうしようもない状況です」

ラビットの言葉にグーフォはかすかに眉をくもらせた。

「う~ん、ラビット君。今の君の考え方だと学生団体は崩壊するだろうな」

「どうしてですか?!」

ラビットはグーフォをにらんだ。

「環境や周りの人を変えようとしているからだよ。自分が変わらなきゃいけない。」

(え?!この言葉)

表現は違えど伝えたいものは同じだと誠は瞬時にわかった。1回目以上の衝撃があった。早く続きの言葉が聞きたい、と誠は願った。その思いが通じてか、グーフォは再び語りだした。

「ラビット君、今君はちょうど限界にぶつかってる。今は君が変わる時だ、周りじゃなくてね。ここで君が自分の限界を乗り越えて成長したなら、周りも必ず変わる。」

「どうやったら僕は成長できますか?」

爆発しそうな感情をなんとか押し殺してラビットは質問した。

「山登りと同じさ。登る時は急傾斜で大変だけど、登りきったら平地が待ってる。登る時だけもっと力を出せばいいように、成長する時、まさに今、力を出して頑張ればいいんだ。」

「そしたら平地が待っているってことですか?」

ラビットの顔は納得しているようには見えなかった。

「そうさ。熱心に今頑張れば、後では随分楽になる。やらなければ一生その位置だ。抽象的な話でわかりにくいかもしれないけど、この山登りをたくさんした人が次元高く人生を生きていくんだ。頂上まで登りきった味があるから次の山も喜んで挑戦できる」

このグーフォの言葉はラビット以上に誠の心に突き刺さった。誠は宝石でも手に入れたかのような満足そうな笑みを浮かべていた。それとは反対にラビットは何とも言えない仏頂面だった。しかし、このラビットが後にこの言葉の真価を誰よりも悟ることになる。グーフォにはその未来が見えていたのか、最後に一つ言葉を残して、その場を立ち去った。

「上智大学は君が変われば変わる。君次第だ。」

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辻 明日真

辻 明日真

田舎に泊まろう!をコンセプトに自転車旅で10代はひたすらバガボンド。大学での豊富な失敗体験を生かして学生アドバイザーを行う傍らブログや小説に熱を入れる。アウトドアに見せかけて実は囲碁、お茶、コタツを三種の神器としているかなりのインドアマインドの持ち主。

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