辻 明日真/ コラム, 小説, 連載/ 0 comments

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《ホーランドロップとトンビ》

辻 明日真

 

 

~前回までのあらすじ~

「大学を辞めるよ」――高比良誠は大学に通う目的を見失っていた。そんな誠に対して、双子の兄、鳶雄が提案したのは、〈人生の入れ替え〉だった。翌朝から二人の人生は全く別の人生に。誠は鳶雄の仕事を。一方、鳶雄は誠になりきって早稲田大学に通うことに。最初の授業で出会った大西政孝と意気投合した鳶雄は、〈平成の松下村塾〉を作ることを決意。

一週間後、政孝が新たに2人の青年を引き連れて現れた。ひょんな出会いで集まった4人による新生村塾。まさに今、彼らは動き出した――。

 

 

第五話『着信(11月6日)』

4人はゆっくりと話し合える場所を探し63号館1階のラウンジに向かった。鳶雄は移動時間も無駄にしない。

「歩きながらで申し訳ないけど、2人に自己紹介してもらっていいかな?」

「おう!!俺はスポーツ科学2年、新村海斗!よろしくっ!」

短髪に、小柄な体格。ハキハキと通る声。全力少年と誰もが思わず言ってしまうような爽やかな青年であった。対照的に、

「応化2年、榮倉、よろしく」

と声に張りがないのは学年トップの成績を持つ榮倉玲央であった。

「2人とも、ここでやりたいことは?」

鳶雄は続けて質問する。

「俺は国際支援がしたい!」

「どうして?」

「1年の時に東南アジアを旅して貧困の現実を知ったから。俺にできることなら何でもしたい!」

「そっか、わかった。榮倉は?」

「家庭の問題」

相変わらず淡白な回答だ、と高校の同級生、政孝は思う。しかし、意外にも玲央は再び口を開いた。

「僕も片親だから。その痛みがわかるから――」

玲央は63号館の中に空いている席を見つけた。

「あ!あそこ空いてる。席4つ」

玲央の意識は話から席に既に移っていた。滅多に自ら語らない玲央の話を聞ける機会を3人は逃した。それを残念に思いながらも鳶雄は席に着くと直ぐに語りだした。

「みんな、面白いね!教育問題、国際支援、家庭の問題。どれも日本が今、直面している大きな山だ!」

相変わらず鳶雄のカリスマ性は他を魅了する。

「誠くんは、この問題を全て解決できると思う?」

政孝は真剣な眼差しで鳶雄を見つめた。

「絶対無理」

横から玲央が入ってくる。

「玲央に聞いてるんじゃない!」

同級生の仲の良さなのか、普段は冷静な政孝も玲央には感情的であった。

「いや、榮倉の言うとおり。俺らだけじゃ、こんな大きな山は動かせない」

「だから松下村塾」

「そう、さすが学年トップ!理解が早い。政孝にも前に話したろ。あれは日本の教育だけに言えることじゃない」

政孝から事前に榮倉が学年トップの頭脳を持つことを鳶雄は聞いていた。しかし、実際に対面してみると、ただ学力が秀でているというわけでもないことがわかった。秀才を連れてきたのは政孝の功績である。

「誠くん。国際支援も家庭の問題も根本は同じってこと?!」

「そうさ、どれも誰かが動かないと何も変わらない。努力なしにタダで得ることは難しいよ。幕末の時代、誰かが日本のために動かなければ、外国の侵略によって、そこで日本は終わっていたかもしれない。その時、動いたのが松陰と松下村塾の塾生たち。彼らが火種となって明治維新は起こった」

「燃えてきた!火付役ってことだな、俺たち!」

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不思議と全力少年の言葉には周りを引き締める力があった。

「ははっ、新村はもうやる気満々って感じだね!」

鳶雄は3人を見ながら思った。

(このメンツなら本当に何かが起こるかも知れない)

全力少年は急に立ち上がった。そして周りに配慮なく吠えた。

「早稲田が変われば、日本が変わる!そして国際支援も更に発展させるぞ!!」

「っおい!新村!!」

すかさず政孝が止めに入る。が、時遅し。周りの注目は一気に海斗に注がれた。

「……」

それを見ながら黙して語らない玲央。

(こいつらはそう簡単には止まらないな、むしろ期待以上に何かやりそうだ)

自ら行う人にはその道が険しかろうと全く関係ない、そんな言葉を鳶雄は思い出していた。彼らを見ながら鳶雄は期待に胸踊らせていた。それとは別に一方では、気がかりなことがあった。一週間前から誠からの連絡が途絶えていたのだ。誠の身に何かが起こったのではないかと懸念が高まる丁度その時、鳶雄の携帯に誠から着信があった。

 

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松下村塾とは?

江戸時代末期(幕末)に長州萩城下の松本村(現在の山口県萩市)に存在した私塾である。吉田松陰が同塾で指導した短い期間の塾生の中から、幕末より明治期の日本を指導した人材を多く輩出したことで知られる。

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辻 明日真

辻 明日真

田舎に泊まろう!をコンセプトに自転車旅で10代はひたすらバガボンド。大学での豊富な失敗体験を生かして学生アドバイザーを行う傍らブログや小説に熱を入れる。アウトドアに見せかけて実は囲碁、お茶、コタツを三種の神器としているかなりのインドアマインドの持ち主。

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